「自動運転」に係る問題(3)運転支援の過信防止に各社腐心


 渋滞時でも先行車に追従して走行できる新しい「運転支援システム」に注目が集まっている。既存の機能と組み合わせることで、全速度域でアクセル・ブレーキ・ステアリングの操作支援が可能になる。
 ただ、依然として運転の責任は運転者にある。“過信”をうまく抑えることこそが、より高度な自動運転システムへの近道。

 20165月、米Tesla Motors(テスラモーターズ)のEV電気自動車)「モデルS」が運転支援システム「オートパイロット」を作動中に衝突事故を起こし、運転者が死亡した。事故原因の詳細は不明だが、車両周囲の障害物を監視して運転に責任を持たなければならないのは、従来どおりの運転者。
 しかし、運転者は同システムを過信してしまったと見られる。アクセル・ブレーキ・ステアリングの操作を支援する機能があれば、「周囲の監視まで含めて運転をシステムに任せてしまおう」と考えるユーザーがいても不思議ではない。


 20167月には、米大手消費者団体のConsumer ReportsTeslaに対して「オートパイロットという名前は運転者に誤解を与える。しかも数分間も手放し運転できるようにしている」との声明を出した。

○「レベル2」でも自動操舵が可能

 こうした事故への懸念は、Teslaの運転支援システム以外にも存在している。「現在の量産車はレベル2であるのに、一部の先進的な車両ではレベル3の機能ができてしまうため[注]」[米保険業界の非営利団体であるIIHSInsurance Institute for Highway Safety)会長のAdrian Lund氏]。

 自動運転の技術開発は、運転者が責任を持つ現在の「運転支援システム」から、システムが責任を持つ「完全自動運転」に移行する過渡期に差し掛かろうとしている。 機能面での進化の方向性こそ、今ではメーカーの枠を超えてほぼ共通化されてきているが、運転者の過信を防ぐ取り組みは、まだ手探りの段階といえる。警告しすぎると使い勝手が悪くなるし、警告しなさすぎると場合によっては安全性が損なわれることが理由。

 日経Automotiveでは今回、日産自動車が新型「セレナ」を20168月に発売するのに合わせて、同様の運転支援システムを備える富士重工業の「レヴォーグ」、ドイツAudi(アウディ)の「A4」、ドイツDaimler(ダイムラー)の「Eクラス」を試乗・比較し、機能の進化の方向性やHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の相違を評価した。(1、表2
  
  表1 運転支援システムを搭載する主要車種と機能の進化

  
   表2 運転支援システムを搭載する主要車種とHMI


 機能面では、海外のプレミアムメーカーであるAudiDaimlerが低速域での追従走行(アクセル・ブレーキ・ステアリング支援)の搭載で先行していたが、日産も国内メーカーとしては初めて同機能を実用化。自動ブレーキで先行してきた富士重工も、2017年に同機能に対応する計画で、大きな相違は徐々になくなってきている。
 一方、システムの使いやすさや運転者によるシステムへの過信防止につながるHMIはメーカーによってばらつきが大きい。しかもHMIについては、追従機能の進化に合わせて変えていく必要がある。最適なHMIは探りながらの開発となっている。

○コストを抑えて有効な機能を採用

 日産のセレナは、センサーで車両の前方を監視し、全速度域でアクセル・ブレーキ・ステアリングの各操作を支援する「プロパイロット」機能を採用した。(1
 同社はこれまでも、アクセルとブレーキの操作を支援する先行車追従においては全速度域への対応を果していたが、操舵支援では高速域(
70kmh以上)だけの対応だった。今回、操舵支援も全車速域に対応させたことで、先行車追従と操舵支援を同時に作動させる“追従支援”が低速域から高速域まで対応可能になった。
   

1 日産の運転支援システム「プロパイロット」。車両はミニバン「セレナ」。(a)インパネ。(b)システム稼働状態。(c)先行車が3秒以上停止した場合の表示。システム再開に向けてボタン操作を求めている。(d)システムをオンにするのはボタン一つで済む。車速の設定で二つめのボタンを操作する

 ただ、現在の車両は運転者が責任を持つ、いわゆる「レベル2」である。運転者は車両の周囲を常に監視する必要がある。それでも「渋滞時に運転者の負荷を大きく減らすことができる」と日産副社長の坂本秀行氏は強調する。

 これまでプレミアムブランドメーカーを中心に導入が進んでいた追従機能が、300万円弱の価格帯の量産車に採用されたという点でも、日産のシステムは大きなインパクトがある。低コスト化のカギは、前方を監視するセンサーを単眼カメラに絞ったこと。

 他社の多くは単眼カメラとレーダーという複数のセンサーを組み合わせる方式。

 日産のプロパイロットでは、先行車や白線だけでなく、前方の障害物(周囲の物体を含む)もカメラで認識できるようにした。従来の操舵支援の多くは、カメラで車線だけを認識して走行するもので、高速域での使用に限定されていた。高速域では、先行車との距離が離れており、白線が見えやすいからだ。低速域や渋滞時は先行車が接近し、白線が見えないこともある。車両前方の多くの物体を認識できるようにすることで、日産を含む各社は低速域の追従走行に対応している。

 日産の追従走行が、低~高速域に対応しているのに対して、65kmh以上の高速域のみ対応しているのが富士重工である。富士重工の運転支援システム「EyeSight ver.3」は、自動ブレーキの普及では先行したが、低速域の追従走行は前述のように2017年に対応する計画である。(2

  

 図2 富士重工の運転支援システム「EyeSight ver.3」。車両は「レヴォーグ」。(a)インパネ。(b)システム稼働状態。左のアイコンの先行車追従のシステムはオン(緑色)、右のアイコンの車線維持支援システムはオフ(白色)になっている。(c)設定ボタン。中段右が先行車追従、上段左が車線維持支援システム。

 一方のAudiは、日産と同様のシステムを備えるが、違いはセンサーの多さ(3)。日産が単眼カメラ1個で全てに対応しているのに対して、Audiは単眼カメラ、ミリ波レーダー、24GHzレーダーの3種類を備える。センサーを複数配置することで、天候や、昼か夜かといった時間帯に依存することなく使える。

  

図3 Audiの運転支援システム「プレセンス」。車両は「A4」。(a)インパネ。(b)システムをオンにするレバー。各レバーの先端のボタンを押す。(c)手放し運転すると15秒程度で警告の表示「ステアリング操作を継続してください!」とともに音が鳴る(秒数は道路環境で変わる)。(d)システム稼働状態はメーターの下の表示で確認できる。アイコンは上から渋滞追従、先行車追従。一番下は車線維持支援システムである

 Daimlerは、低~高速域の追従機能以外に、車線がない道路での追従、車線変更の支援、手放し運転が長期間続くと自動で減速・停止させることまで対応している。
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図4 Daimlerの運転支援システム「ドライブパイロット」。車両は「Eクラス」。(a)インパネ。(b)車速設定用のレバー。(c)システム稼働状態はメーターの右下に表示する。左が先行車追従、右が操舵支援システム。(d)手放し運転すると警告の表示が出る。(e)システムをオンにするためのボタン。

○システムオンのボタンは1~2個

 操作系では、システムのオン/オフのボタンの数がメーカーによって異なる(先行車追従時の最高速度設定のボタンは除く)。日産のプロパイロットは、先行車追従と操舵支援をボタン1個で起動できるようにした。他社は、先行車追従と操舵支援のそれぞれに専用のボタンを設けている。

 システムのボタンの数だけではなく、配置もメーカーによって異なる。日産と富士重工は、ステアリングホイール上の、右手で操作できる位置にボタンを置く。これに対して、Audiはステアリングコラムの2本のレバー(ウインカーレバーと先行車追従レバー)の先端にボタンを配置した。そのボタンを左手の親指で押すことでシステムが稼動する。

 Daimlerはインパネの運転席手前のドア側にボタンを配置する。ステアリングホイールやインパネは機能が多く、メーカーごとに新たなスペースを見いだすのに苦労する。

○手放し運転、15~30秒で警報

 運転支援システムでは「ステアリングホイールから一時的に手を離すことは問題ない」(国土交通省)とするが、運転者は前方に意識を集中し、必要に応じてステアリングホイールを握れる態勢を維持しなければならない。各社はシステム作動中、運転者にステアリングホイールに手を触れることを求めているものの、実際には手放しで運転してもシステムは作動する。

 ただ、長時間の手放し運転が可能だと、運転者が過信して、運転とは無関係の行為に走る可能性が増す。
 手放し運転できる時間を比較したところ、日産は早くて5秒程度で、富士重工とAudi15秒程度で表示や音を使って注意を促した。一方のDaimlerは、警告の表示までの時間は長く30秒程度、さらにその約10秒後に音を鳴らす、という方式だった。
 しかし、それでもステアリングホイールを握らないと、運転者が意識を失っているか、過信しているとみなして、減速し、車両を停止させる対応を取っていた。手放し運転が可能な時間を長く取っている分、その対策までを含めて機能を練り上げ安全性を確保している。


 今後、自動運転の機能を進化させるに当たって、HMI側に求められるのが運転者を監視する機能だ。

 実は現在でもEPS(電動パワーステアリング)の機能として付いているトルクセンサーを使えば、ステアリングホイールを握っているかどうかを判定できる。しかし、ステアリングホイールを握っていても、わき見運転をしている可能性もあり、十分に運転者の状況を把握できているわけではない。今後は、車内カメラを配置することなどで、運転者の状態をより正確に、細かく把握できるようにする必要がある。

 車内カメラで運転者の状態を監視できるようになると“長時間の手放し運転が過信になる”という現在の考え方は変わっていく可能性が高い。運転支援で大切なのは「運転に集中しているかどうかが大きい」(自動車メーカー)ため。

○緑色アイコンで作動を示す

 運転支援システムの動作状態を示すアイコンの表示場所は、各社で異なるが、先行車追従と操舵支援のそれぞれにアイコンを用意するという点では現在は共通している。例えば日産は、先行車追従、車線、ステアリング操舵の各アイコンを表示。センサーが機能に関わる対象を認識すると、各アイコンが白色から緑色に変わる。認識できなくなると白色に戻る。

 ただ、急なカーブが多い場所では先行車や白線を認識できなくなる。首都高を走行したところ、富士重工やAudiのシステムは、エリアによって、数十秒ごとにアイコンが認識中/認識不可を繰り返すことがあった。運転者はシステムを稼働させていても、いざというときはステアリングを確実に操作する必要がある。現状、追従システムが安定して機能しやすいのは、渋滞走行時、および直線状の道路での高速走行時といえそう。

 表示の場所は、Audiや富士重工がメーターパネル中央部としているのに対して、Daimlerはメーターパネルの右下、日産はメーターパネル左側の7インチのパネルに表示する。

○渋滞追随時、長時間停止はボタンを押す

 渋滞追従時は頻繁に車両が一時停止する。停止状態を保つには、ESC(横滑り防止装置)の油圧を発生させ続ける必要があり、モーターやポンプが消耗しやすいという課題がある。また、長い間、車両が停止していると追従システムが作動していることを忘れてしまう恐れもある。そこで最大の一時停止期間を定めて、その後はシステムをキャンセルしてしまうものが多い。

 日産は、3秒間までの停止ならシステムが継続するが、3秒~3分になると、ステアリング上のボタン「RES+」を押すか、アクセルペダルを踏まないと、システムを再開できないようにしている。また、ESCの耐久性や過信防止を考えて停止状態から3分を超える場合は、システムを停止させる仕組みを採用。その代わり、ESCからEPB(電動パーキングブレーキ)に切り替えて車両の停止状態を継続できるよう配慮している。

 Audiは日産と同様、停止後3秒まではシステムが継続する。一方のDaimler30秒まではシステムが継続する。30秒を超えてシステムを再開させるにはスイッチやアクセルペダルを踏む必要がある。国土交通省は今後、これらHMIについても技術指針などである程度基準を定める方針。           (語句削除加筆)

運転支援、「過信」防止に各社腐心 2016/10/25 6:30日本経済新聞 電子版
日経Automotive 小川計介

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