「自動運転」に係る問題(2) (日本の完全自動運転の実用化)

前提として自動運転の「レベル」について

 ひとことで自動運転といっても、その中身はいろいろある。  2014年初め、アメリカとドイツが中心となり「こんな感じでは?」と自動運転の度合いを示す「レベル」を決めている。
 ただ、その「レベル」はアメリカの自動車技術会(SAE)と、アメリカの国家道路交通安全局(NHTSA)では、区分けが若干違う。
 欧州の自動車メーカーでは、SAEの「レベル」を採用し、日本の自動車メーカーではNHTSAの「レベル」を採用する場合が多いという、面倒な状態になっている。

 日本国内での自動運転については、NHTSAの基準を使う。なぜなら、クルマに関する法整備を行う国土交通省が、「NHTSA準拠」の姿勢。

「レベル4」に対する考え方が10ヶ月半で様変わり


 「オールジャパンで、自動運転技術を集約して世界市場に」。産学官が連携したのが、2014年に始まった内閣府による「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」での自動運転プロジェクト。ここでは、国土交通省、経済産業省、総務省、そして警察庁が内閣府の旗振りによって、規制緩和や国際的な協調を進めている。
 
    
 
 そのSIP自動運転プロジェクトが基盤となって、平成27年6月30日「官民ITS構想ロードマップ2015」を公開した。ITSとは自動運転を含む高度交通システム(インテリジェント・トラフィック・システム)のこと。

 このなかで、自動運転の各「レベル」について、以下を目標年と定めている。

 
レベル2では、追従、追尾システム、衝突回避のためのステアリングが2016~2017年頃
さらに、車線変更を伴う自動運転も2016~2017年頃

 レベル3は、高速道路での自動合流等などで、2020年頃

 そして、完全自動運転であるレベル4は、高速道路で2025~2028年頃、都市などの一般道路で2027~2030年頃を目指すとしていた。
  
    

7年の前倒し

 それから10ケ月半後の平成28年5月20日に発表された「官民ITS構想ロードマップ2016」では、驚きの改定となっている。

 2016年上半期の時点でレベル2については、トヨタ「セーフティセンス」や、ホンダ「センシング」などの量産が本格化してきた。

 また、自動レーン変更では、テスラやダイムラーが
2016年中に製品が完成しているなど、「ロードマップ2015」で描いたイメージよりも量産のペースが1年ほど早い印象だ。

 そのため「ロードマップ2016」では、そうした市場の実情を盛り込んで、レベル2を「市場化済」と記載し、自動レーン変更は2017年には各メーカーから量産品が出揃うという解釈を示した。そして、レベル3は「2020年を目途」として、「ロードマップ2015」を継承するに止めた。

 ところが驚いたことが起こった。レベル3のさらにその先、レベル4に対する大規模な表記改定が行われたのだ

  
 PDFファイルのダウンロード 
 官民ITS構想・ロードマップ2016(案)<概要>
 官民ITS構想・ロードマップ2016(案)


 まず、完全自動運転を「無人自動走行移動サービス」と「完全自動走行システム」の2つの領域に分けた。

 無人自動走行移動サービスとは、日本では「ロボットタクシー」、アメリカでは「グーグルカー」を指す。これらは、無人走行車を遠隔操作で管理するか、または専用の空間(地域)での走行を想定している。

 そして、無人自動走行移動サービスの市場化を「限定地域・2020年までに」と明記した。つまり、「ロードマップ2015」で都市部の一般路での想定「2027~2030年」から、一気に7年以上も前倒しになったのだ。

            

 また、遠隔操作による管理を行わない、一般車による完全自動運転システムについても「ロードマップ2015」では、高速道路で「2025~2028年」としていたものを、場所を限定せずに「2025年目途」という事実上の前倒しとなった。

前倒しの原因は、アメリカの動き

 どうして国はここへきて、完全自動運転の実用化に対していきなり積極的になったのか?その理由について、SIP関係者の多くが、平成27年11月5日の安倍晋三総理の発言にあると言う。

 これは、第二回「未来投資に向けた官民対話」で、「2020年オリンピック・パラリンピックでの無人自動走行による移動サービスや、高速道路での自動運転を可能にする」としたもの。

 これによって、2027年までに実証試験のための制度やインフラ整備を進めるとした。この発言は当然、官僚が書いたシナリオである。そのシナリオを作るに至った原因とは、アメリカで急速に進み出した自動運転に関する事実上の標準化(デファクトスタンダード)の動きだ。

 最初は水面下で進んでいた、こうしたアメリカでの動きは、今年に入って加速した。

大きな時代変革に乗り遅れる

 最初、グーグルとNHTSAとの「規制緩和に伴う安全性の確保」に関する書面がリークされた。次いで4月末には、グーグル、フォード、ボルボ、さらにライドシェア大手のウーバーとリフトが米連邦議会に対する「法整備を進めるための圧力団体」を立ち上げた。

    

 しかもこの団体の広報担当者に、連邦政府の自動車行政機関のトップであった前NHTSA長官を充てるということまでやってみせた。

 国と民間の協力のもとの世界標準基準造り。このようにアメリカが「自動運転の利権はウチがしっかり頂くよ」という態度を露わにするなか、日本としても「なんとかしないと、大きな産業改革の旗手グループから外れてしまう。」という危機感が成させたものだった。

日本は欧米に抜かれてしまう?

 さらに最近は、欧州共同体(EU)も自動運転に関する法整備を加速させることを明言しており、日本としては「なんとかせねば!」という焦りが出てきた。

 これまで、世界最高のカーナビ製品や、世界最先端の交通情報システム・VICSなどで、ITS戦略では世界をリードしてきた日本。自動運転に関しても『軽自動車でも自動ブレーキ標準装備』といった先進技術を世界にアピールするなど、高度なセンサー技術を武器に世界最先端を狙ってきた。
             

 だが、ここへきて国家戦略を「7年、前倒し」せざるを得ないほど、欧米の攻勢が強まってきている。
 はたして、日本はこのまま逃げ切れるのか?それとも、欧米のお尻を見ながら、ついていくことになってしまうのだろうか



出 典 クルマ選びの総合支援ポータル オートテックワン 記事・レポート>特集>自動車評論家コラム>いったい何が? 日本が焦る完全自動運転の実用化、国家戦略「7年前倒し」の舞台裏 筆者: 桃田健史 (一部語句削除加筆等)

戻る

inserted by FC2 system