「自動運転」に係る問題(1) (平成28年9月)

 自動運転に関係する法律として、警察庁が所管する「道路交通法(道交法)」と自動車保険制度の根幹となっている「自動車損害賠償保障法(自賠法)」があるが、どちらの法律も無人の自動運転車を想定していない。

 自動運転といっても、「加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う」レベル1から、「加速・操舵・制動のすべてをシステムが行い、ドライバーが全く関与しない」レベル4まで、4段階あるとされている。このうち、ドライバーが常時運転を制御するレベル2までは、現行道交法でもおおむね対応可能とされている。

 これに対して、「加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する」レベル3は、現行道交法下では、認められていない自動運転(システム)に運転させていると、ドライバーが安全運転義務を果たさないこととなってしまう。

 
道交法はドライバーに数多くの義務を課している。たとえば道交法第七条は、「道路を通行する歩行者又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等に従わなければならない」と定めている。そして、道路交通法施行令で青、黄、赤のそれぞれの意味を決めている

 それぞれの色の意味するところには、あいまいな部分がある。たとえば、黄信号の場合、「当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない」ときには進行が認められているが、その判断方法を人工知能にどう実現させれば良いのか。

 赤信号
時は「すでに左折/右折している」ときはそのまま進行できると定められているが、交差点のどの部分まで進入していれば進行してよいのかを適切に判断できる人工知能にしなければならない。

 信号の注視義務の遵守も簡単ではない。道交法は人間のドライバーに対して、信号機の目視を求めているが、実際には、人は、たとえば直前に大型トラックがいて信号機が見えない状態で待っているような時では、大型トラックが動き出した段階で(信号機を目視せずに)信号が変わったと判断して動き出す。

 このような例では、自動運転が道交法を厳しく遵守すれば問題ないとは言えない。「青信号を目視しない限り、進んではならない」というプログラムを搭載した自動運転車は、周りの円滑な通行を乱し、事故を誘発しかねない。

 解決方法として、信号機の情報を電波などで送受信(
道路上に設置した無線装置から、赤外線を使って車と情報をやり取りする「光ビーコン」と呼ばれるもの等)する方法がある。いわゆる路車間通信(道路標識等のインフラ設備から自動車に情報伝達して安全運転を支援するシステム)。

 レベル3以上の自動運転を実用化するには、まずは自動運転を認める法制度の改正と人の新たな意識と、その社会が必要。
 また、各国、各地域での道路環境(道路構造、安全施設)、道路法規等にも合うプログラムが必要など様々な課題もある


出典 日本経済新聞 
求む「いいかげんなAI」、道交法守りつつ周囲に順応
     自動運転が作る未来(4) 2016/09/21 06:30 (一部語句・文章削除等)

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